教育長の一言・エッセイ等

一流のリーダーの伝言―教育長のひとこと

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9月18日(木)筑波大学において第18回トップマネジメントセミナーが開催されました。講師は、藤崎一郎大使(日米協会会長)と大竹美喜先生(アフラック創業者・最高顧問)のお二人です。もったいないくらいの、超一流のお二人のリーダーのお話しを、同時に聞くことができ、「リーダーの生き方」についてヒントをいただきました。

 

藤崎一郎大使は、在アメリカ合衆国特命全権大使(2008年~2012年)をつとめられた方です。藤崎大使のお話しは、以下の3点が心に残りました。とくに国と国との関わり、人と人との関わりについての能力について、豊かな示唆を得ました。

 

 

①  物事の本質をつかむために、自分の頭で考える・・相手の言葉をそのまま受け入れるのではなく、「相手は何を求めているか」について、表面的ではなく自分なりに解釈して考えることが大切だと言われました。外交の専門家の言葉には重みと説得力があります。この言葉は、私の職業であるカウンセリングにも通じます。クライエント(相談に来た人)の言葉を聞きながら、「相手は何を訴えているか」について、感じ取ろうとしますし、また考えます。

 

②  できごとや自分の考えを正確に伝える・・・5分であれ、15分であれ、与えられた時間で話せるように、要点を「圧縮」して表現する力を身につけることが大切と言われました。「正確に、かつ簡潔に」です。この能力も訓練が必要です。藤崎大使は、職業についてから多くを学んだと言われますが、表現する力は、学び続けることで身につく能力かもしれません。実はカウンセリングにおいても、クライエントの気持ちや考えを、カウンセラーとして理解したことを「適切に、かつ短く」返すことが求められます。もちろんそれに対してクライエントがまた言葉を返しますので、「やりとり」を通してカウンセリングは進んでいきます。何かを伝えること、そしてやりとりすることでは、趣旨に焦点をあてる(脱線しない)ことが成功の鍵を握ります。

 

③  感謝する・・・東日本大震災で、日本はアメリカ合衆国をはじめ多くの国の支援を受けました。このことを、きちんと感謝する気持ちを忘れてはいけないと、大使は言われました。実は私も被災地の子ども・学校を支援する、日本学校心理士会のチームの代表として、アメリカ学校心理士協会のタイムリーで継続的な支援を受けています。感謝を表現することは、リーダーとしての必須条件であるとあらためて痛感しました。

大竹美喜先生は、アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)を創業された方です。大竹先生のお話は、以下の3点が印象的でした。とくに新しい道を開拓するスピリットについて知恵を授けていただきました。

 

①  リーダーは難問に向き合う係だ・・・大竹先生は会社を創ったからには逃げられないので、リスクに向き合ってきたと話されました。道なき道を拓いてこられた大竹先生は、多くのリスクと対峙され対応されてきたと思います。「難問に向き合う」のがリーダーの役割。リーダーはリスクの請負人であるという表現に、大竹先生の旺盛な好奇心と自立した精神を感じます。教育に関わる私は、好奇心と自立性こそ、教師に求められる資質だと思っています。子どもとの関わり・教師同士の関わり・保護者との関わりでは、ときには「難問」と向き合います。その難問から逃げずに、誠実に向き合うことの大切さを痛感します。

 

②  リーダーはオーケストラの指揮者のごとく、すべての音を聴き取る・・・社長であり会長であった大竹先生ならではの言葉です。指揮者のタクトを振るところよりも、多様な音を聴き取るところに着目されることに感銘を受けました。これは「一人ひとりを大切にするインクルーシブ教育」と通じます。そしてマイノリティを含めたすべての人々を尊重するリーダーシップは、学校経営や教育の在り方を支えるものだと思います。

 

③  人と比べない、自分らしさを尊重する「絶対的評価」をする・・・大竹先生は、人と比べても、永遠に勝者になることはできないと言われました。自分が自分のライバルであり、独創性が大切であると強調されます。私たち教育関係者は、子どもの成績を比較して、「よい生徒」「ふつうの生徒」と分類することがあります。一人ひとりの子どもが自分らしく生きる勇気をもつためには、子どものよいところ、ユニークなところを、見つけて励ますのが、教師の役割ですね。

 

お二人の話の最後に、藤崎大使が、ふたりの話の共通点は、「お手本を探さない」ことだと言われました。リーダーとして、自立的に生きていくとき、お手本は見つからないのかもしれません。また自分をお手本として、他者に押しつけるのもよくないと言えます。周りの一人ひとりの音を聴き、自分で考え、自分で歩き、自分のことばで表現する・・・藤崎大使と大竹先生のお話から、リーダーとして、そして人間としての生き方について、またグローバル人材について考える深いヒントをいただきました。

筑波大学附属学校教育局HP “教育長のひとこと”より >